令和06年度(2024)久留米大学医学部推薦入試数学過去問の解説授業(5/5)

過去問で学ぶ推薦入試数学

この記事には,久留米大学医学部推薦入試過去問の詳しい解説が載っています。

過去問を通して久留米大学医学部の数学について学べるように,授業のような解説にしています。これまで勉強してきたことを整理し、あなたの数学力をレベルアップしましょう!

解答はすでにこちらの記事で示しております。

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令和06年度(2024)久留米大学医学部推薦入試数学[5]

[5]意外と奥が深い!シグマの計算

5番の問題は,シグマの計算についての問題です。
 
「シグマの計算なんて簡単だよ。一通り解き方知ってるし」
 
そういう受験生は多いと思いますが,本当にそうでしょうか。
 
今回の問題には,少し高度な解法が含まれています。この解法を知らなかった受験生にとっては,少し難しく感じたかもしれません。
 
ぜひこのレベルまでマスターしておきましょう。
 

分母が積の形なら,部分分数分解を疑え

(1)は典型的な部分分数分解の問題です。ここは有名な解法なので,解けた人は多かっただろうと推測します。
 
先生と久米さんの会話文がありますが,ほとんど読む必要はありません。
 
(1)  \begin{align*}  
\frac{1}{(2k-1)(2k+1)}=\frac12 \left( \frac{1}{2k-1}-\frac{1}{2k+1}\right)
\end{align*}
であるから,\(a=2. \quad \cdots \textrm{(答)}\)
 したがって
\begin{align*}
\sum_{k=1}^{n}\frac{1}{(2k-1)(2k+1)}=& \frac12 \sum_{k=1}^{n}\left( \frac{1}{2k-1}-\frac{1}{2k+1}\right) \\
          =& \frac12 \left( 1-\frac{1}{2n+1}\right) \\
          =& \frac{n}{2n+1} \quad \cdots \textrm{(答)}
\end{align*}
 
\(\frac{1}{ab}\)の形の分数を,\(m \left( \frac{1}{a}-\frac{1}{b}\right)\)の形に変形することを,部分分数分解と呼んでいます。1つの分数が2つの分数の差の形に分けられます。
 
(2つの分数を1つにまとめるときに通分しますが,その逆ですね。)
 
部分分数分解したあとは,\(k=1,~2,~3,~\cdots ,~n~\)を代入して和を取ると,うまく消えてくれてスッキリ計算できます。
 
実はこの部分分数分解,もう少し深い背景を知ると,幅広い問題に対応できるようになります。それが次の問題です。
 

差の形を作ることこそが解法の本質

(2)の問題は先生と久米さんの会話文が長く,しっかり読み込むと時間がかかりそうです。必要なところだけ拾い出して読みましょう。
 
目的は\(~\displaystyle \sum_{k=1}^{n}(k+1)\cdot 3^k~\)を計算することです。
 
「あ!知ってる,この解法」
 
と思った人や,1行目にある久米さんの会話の中に
 
「\(S_n-rS_n~\)を計算して \(\cdots\)」
 
とあるのを見て解法を思い出した人の中には,その計算法で計算を進めた人もいたでしょう。
 
もちろん,この「\(S_n-rS_n\)を計算して求める」という解法は,教科書にも載っていて有名な解法なので,当然知っておかなければなりません。
 
でもその解法しか知らないと,この(2)までは解けても(3)は苦労するでしょう。
 
先生の会話文の中に「今回は別の方法でこの和を求めてみましょう」とあります。よく知られた問題の,別解を考えてみよう,ということですね。
 
その別解について知らなくても,会話文の中で作る式の形などを示してくれているので,その通りに進めていけば,解くことは可能でしょう。
 
でも,もしこの別解を知っていた人ならば,会話文はほぼ読む必要がありません。
 
その分,素早く問題を解くことができるでしょう。知識は力ですね
 
ポイントは,\((k+1)\cdot 3^k~\)を差の形にすることです。
 

\[ (k+1)\cdot 3^k=\left( s(k+1)+t \right)\cdot 3^{k+1} – (sk+t)\cdot 3^k \]

 
を与えられているので,この右辺の\(~s,~t~\)を求めます。
 
あとはシグマをとれば・・・部分分数分解と同じように,前後の項が消えてしまい,楽に計算できます。
 
(2) \[ (k+1)\cdot 3^k=\left( s(k+1)+t \right)\cdot 3^{k+1} – (sk+t)\cdot 3^k \] 両辺を\(3^k\)で割って整理すると \[ k+1=2sk+(3s+2t) \] これは\(k\)についての恒等式であるから \begin{align*} 2s=1~ \text{かつ} ~3s+2t=1 \\ ∴ s=\frac12,~t=-\frac14 \quad \cdots \textrm{(答)} \end{align*} したがって \begin{align*} \sum_{k=1}^{n}(k+1)\cdot 3^k=& \sum_{k=1}^{n}\left\{ \left( \frac12(k+1)-\frac14 \right)\cdot 3^{k+1}-\left( \frac12k-\frac14 \right) \cdot 3^k \right\} \\ =& \left( \frac12(n+1)-\frac14\right) \cdot 3^{n+1}-\left( \frac12\cdot 1-\frac14\right)\cdot 3^1 \\ =& \frac{(2n+1)\cdot 3^{n+1}-3}{4} \quad \cdots \textrm{(答)}  \end{align*}
 
この解法を知ってどう思いましたか?
 
「また新しい解法を学んだ。これも覚えておこう」
 
と思う人は多いでしょうが,そのレベルでは勿体無い。さらに大きな視点で考えましょう。
 
この解法と,部分分数分解とに共通することは何でしょうか?
 
(1)と(2)は一見別の問題であり,別々の解法を使っているように見えます。でもよく考えてみれば,共通した考え方がありますよね。
 
そう,それは「差の形を作る」ことによって計算がしやすくなっていることです。
 
もう少し丁寧にいうと,\(\displaystyle \sum_{k=1}^{n}f(k)\)の計算は,

\[ f(k)=g(k+1)-g(k) \]

を満たす\(g(k)\)を求めることができれば,簡単に計算することができます。
 
これが解法の本質であり,部分分数分解はその手段の一つ,と位置付けることができます。
 
そしてその\(g(k)\)は,\(f(k)\)の形から推測ができるのです。
 
この本質が理解できれば,次の(3)も解けたでしょう。
 

(3) \[ (k^2+k+1)\cdot 3^k=\left(s(k+1)^2+t(k+1)+u\right)\cdot 3^{k+1}-(sk^2+tk+u)\cdot 3^k \] 両辺を\(3^k\)で割って整理すると \[ k^2+k+1=2sk^2+(6s+2t)k+(3s+3t+2u) \] これは\(k\)についての恒等式であるから \begin{align*} 2s=1~ \text{かつ} ~6s+2t=1 ~\text{かつ} ~3s+3t+2u=1\\ ∴  s=\frac12,~t=-1,~u=\frac54  \end{align*} したがって \begin{align*} \sum_{k=1}^{n}(k^2+k+1)\cdot 3^k=& \sum_{k=1}^{n}\left\{ \left( \frac{(k+1)^2}{2}-(k+1)+\frac54 \right)\cdot 3^{k+1}-\left( \frac{k^2}{2}-k+\frac54 \right) \cdot 3^k \right\} \\ =& \left( \frac{(n+1)^2}{2}-(n+1)+\frac54\right) \cdot 3^{n+1}-\left( \frac{1^2}{2}-1+\frac54\right)\cdot 3^1 \\   =& \frac{(2n^2+3)\cdot 3^{n+1}-9}{4} \quad \cdots \textrm{(答)}  \end{align*}

 
ポイントはもちろん,\((k^2+k+1)\cdot 3^k\)を差の形に分けることです。2次式と\(3^k\)の積なので,差の形も似たような形になるだろうと推測します。
\(g(k+1)-g(k)\)の形にするので,前後で1ずれていることに注意しましょう。
 
この問題は,差の形を使わずに,受験生によく知られている,\(S_n-rS_n\)を使って解くこともできます。
 
ただし,その計算は2回しなければなりません。そのため,計算に多くの時間がかかりますし,ミスの可能性も格段に高くなります。
 
そういう意味でも,受験生がよく知っている解法よりも,この差の形を作る解法の方が,応用も効くし本質的な解法だと言っていいと思います。
 
知らなかった人はぜひ「差の形を作る」と覚えておきましょう。
 
ここまでの説明が理解できた人ならば,(4)の解答もスムーズに理解できるでしょう。
 
(4) \begin{align*} \frac{1}{(3k-1)\cdot 2^k}-\frac{1}{(3k+2)\cdot 2^{k+1}}=& \frac{2(3k+2)-(3k-1)}{(3k-1)(3k+2)\cdot 2^{k+1}} \\ =& \frac{3k+5}{(3k-1)(3k+2)\cdot 2^{k+1}} \end{align*} したがって \begin{align*} \sum_{k=1}^{n}\frac{3k+5}{(3k-1)(3k+2)\cdot 2^{k+1}}=& \sum_{k=1}^{n}\left\{ \frac{1}{(3k-1)\cdot 2^k}-\frac{1}{(3k+2)\cdot 2^{k+1}} \right\} \\ =& \frac{1}{2\cdot 2^1}-\frac{1}{(3n+2)\cdot 2^{n+1}} \\ =& \frac{(3n+2)\cdot 2^{n-1}-1}{(3n+2)\cdot 2^{n+1}}  \quad \cdots \textrm{(答)} \end{align*}
 
部分分数分解の発展形みたいなものです。差の形にすることが目的だ,と思えば理解できるでしょう。
 
本番で解けた人は少なかったかもしれませんが,知識として知っていた人なら,スムーズに解けたでしょう。
 
部分分数鵜分解の解法から,この「差の形を作る」解法にアップデートしておきましょう。

この問題のポイント

振り返ってみましょう。

この問題が解けるかどうかのポイントは、

  1. 部分分数分解を使って解けるか 
  2.  誘導を用いて差の形を作る解法を使えるか
  3.  式の形から差の形を予想できるか
  4. 差の形を作る解法が本質的であることを理解できるか
 
といったところです。
 
少しレベルの高い問題でしたが,知識があれば他の受験生に差をつけることができます。ぜひマスターしておきましょう。
 

※誤植やミスを見つけた方は,ぜひお知らせください。

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